省エネの提案そのものに、正面から反対する人はまずいません。それなのに稟議書を上げると決裁が止まる。「もう少し検討を」「来期の予算で」と返ってきて、そのまま半年が過ぎる——大規模施設の管理部門から、この種の相談を受けることがあります。
止まっている原因は、提案の中身ではないことがほとんどです。金額の大小より前に、書かれた削減額がどこから来た数字なのかを決裁者が読み取れない。だから判断を保留します。年間の電気料金が2,000万円を超えるような施設を想定して、差し戻しの理由と書き方を整理します。
省エネ投資の稟議が止まる理由の多くは、投資額の大きさではなく、削減見込み額の根拠を決裁者が確かめられないことにあります。設備を入れて生産量が増える提案なら、効果は売上として後から検証できます。一方、省エネの効果は「本来かかるはずだった費用が、かからなくなったこと」です。減った費用は請求書に現れません。導入後に請求額が下がっても、それが対策の成果なのか、その年の気温や稼働率によるものなのかを切り分けるのは簡単ではない。決裁の経験がある人ほどそれを知っているため、削減額を額面どおりには受け取りません。
もう一点、省エネの稟議には緊急性がありません。故障した設備の更新と違い、やらなくても明日の業務は回ります。稟議書に必要なのは削減額を大きく見せることではなく、その数字の出どころと、想定を外れたときに何が起きるかを先に書くことです。
差し戻しの言葉は曖昧ですが、確かめられている中身は、たいてい次の4点に収まります。
書くべきなのは削減額そのものではなく、その手前にある前提です。どの月の電気料金明細を使ったのか、単価は何年何月時点のものか、基本料金の削減と電力量料金の削減をそれぞれいくらと見たのか。この内訳があれば決裁者は自分で検算できます。根拠を示さない「年間これだけ削減できます」は、金額が小さくても止まります。
決裁者が気にするのは上振れではなく下振れです。削減額が見込みの半分だったら支払いはどうなるのか、契約は解除できるのか。ここに触れていない稟議書は「未知のリスクを自分が引き受ける文書」に見えます。削減できた電気料金の範囲内で支払う契約であれば、削減が小さければ支払いも小さくなります。その条件があるなら明記してください。
期初に計上していない支出は、金額にかかわらず審議が重くなります。投資しない場合の損失を示すか、予算計上を必要としない出し方を選ぶかのどちらかです。後者は次の章で扱います。
止められない施設では、削減額より先にここが確認されます。停電を伴う作業の有無と所要時間、営業時間外に収まるかどうか。現地調査で分かることなので、書ける状態にしてから上げてください。
同じ省エネ対策でも、設備を購入するのか初期費用0円のスキームで導入するのかによって、会計上の扱いと決裁のルートが変わる場合があります。設備を購入すれば資産として計上され、多くの企業で設備投資の稟議として扱われます。金額区分に応じて決裁者の階層が上がり、予算計上の有無も問われます。
一方、初期費用0円のスキームは、設備の購入ではなく役務の対価として支払う形です。期間の費用として処理され、通常の契約稟議として扱われることがあります。設備投資の枠を使わないため、予算に計上していない年度でも動かせる可能性が出てきます。
ただし会計処理と決裁区分は、契約内容と社内規程によって変わります。稟議を書く前に経理部門へ契約の概要を見せ、資産計上か費用処理かを確認してください。この一手間で決裁ルートも添付書類も変わります。
本文を厚くするより、根拠になる資料を付けるほうが決裁は速く進みます。
とくに最後は見落とされがちです。施工を外部に委託する形であれば、不具合が起きたときの窓口が分かれます。当社は電気工事士資格を持つ自社スタッフが施工まで担当しており、この体制も書き添えると問い返しが減ります。
回覧の過程では、決裁者以外からも意見が付きます。よく出るものは決まっているので、あらかじめ一文を置いておけば、差し戻しではなく質問で済みます。
同じ内容で再提出しても結果は変わりません。範囲を狭めて実測データを取ってから本稟議を上げるほうが通りやすくなります。まず計測だけを行い、直近12か月の最大需要電力と発生時刻を明らかにする。そのうえで「この時間帯のこの設備を抑えれば契約電力はここまで下がる」と書き換えます。根拠が一般論から実測へ変われば、確かめられない部分は大きく減ります。
また、補助金を前提にした稟議は、採択されなければ案件ごと消えます。補助率は一般に3分の1から2分の1程度とされていますが、公募の時期に合わせる必要があり、交付決定を待つ時間もかかります。使えれば使うという位置づけにして、無くても成立する形で組み立てておくと審議が空転しません。
稟議を書く前に、次の3点を提案元に確認してください。
当社の場合、年間の電気代削減額は施設の規模に応じて70万円から720万円が目安で、CO2排出量は年間で数十トンの削減です。初期費用は0円、削減できた電気料金の範囲内でお支払いいただきます。導入実績は約3,500社・12,000施設です。
社内基準は企業ごとに異なるため、一律の年数はありません。自社の決裁権限規程や設備投資基準に上限が定められているかを先に確認してください。初期費用0円のスキームでは、回収年数という指標が当てはまらない場合があります。
費用の出し方によります。設備を購入する場合は設備投資の枠が必要ですが、役務の対価として期間の費用で処理される契約であれば、通常の契約稟議として扱われることがあります。
契約形態によって異なります。削減できた電気料金の範囲内で支払う仕組みであれば、削減額が小さければ支払額も小さくなります。この扱いを契約書の条項とあわせて記載してください。
電気料金の明細をご用意いただければ、年間の削減見込み額とCO2削減量を無料で算出します。試算の前提もお渡ししますので、そのまま添付資料としてお使いいただけます。
省エネ投資の稟議が止まるのは、金額が大きいからではなく、削減額の根拠と下振れしたときの扱いを決裁者が確かめられないためです。あわせて、費用の出し方によって会計上の扱いと決裁ルートが変わることも押さえてください。すでに一度差し戻されているなら、同じ内容での再提出は避け、計測から始めて自施設の実測値で書き換えるのが、遠回りに見えて最も早い道です。