エネルギーコストの削減目標を掲げることになり、では何を指標に置くか、というところで手が止まっている——そういう段階で情報を探している担当者は多いはずです。前年比で何パーセント削減、という数字は出しやすい一方、それを毎月どう追いかけるのか、達成できなかったときに何を直せばいいのかまでは決まっていない、という状態です。
KPIの設計そのものについては一般的な解説が多くありますが、エネルギーに限ると事情が変わります。電気料金は自社で決められない単価と、事業側の都合で決まる稼働量の両方に左右されるためです。この記事では、指標の選び方、原単位の分母の決め方、目標値の置き方を、大規模施設の担当者向けに整理します。
総額は、使用量と単価と稼働量が掛け合わさって動きます。そのため単価が上がった年は努力しても悪化し、稼働が落ちた年は何もしなくても改善してしまいます。
高圧の電気料金は、契約電力で決まる基本料金と、使用電力量に応じた電力量料金、燃料費調整額、再エネ賦課金でできています。このうち各単価は市場や制度で決まり、施設側では動かせません。稼働量も、生産計画や稼働率といった事業側の判断で決まります。
結果として、総額を唯一のKPIにすると、評価が現場の取り組みと切り離されます。制御を入れてピークを抑えた年でも、単価の上昇が上回れば総額は増えます。逆に、何も手を打たなくても稼働が落ちれば総額は下がります。どちらの場合も、次に何をすればよいのかが分かりません。
総額をやめる必要はありません。総額は経営に報告する数字として必要です。ただし、それだけを置くのではなく、動かせる部分を切り出した指標を下に重ねる必要があります。
報告用の成果指標、実務用の中間指標、現場が毎日見る先行指標の3層に分けます。層ごとに、見る人と見る頻度が変わります。
成果指標には、電気料金の総額とCO2排出量を置きます。これは経営や対外報告に使う数字で、年次や四半期で確認します。単価や稼働の影響を受けますが、報告する相手が知りたいのはこの数字です。
中間指標には、エネルギー原単位と契約電力を置きます。原単位は稼働の影響を取り除いた指標で、契約電力は基本料金を直接決める数値です。どちらも月次で追えます。とくに契約電力は、一度下げれば下がったまま推移する性質があり、施策の成果がそのまま残る指標です。
先行指標には、月内の最大デマンド値と、目標ラインを超えた回数を置きます。30分ごとに計測され、日次で確認できます。この層だけが、月が終わる前に手を打てる指標です。上の2層は結果が出てからしか分かりません。
原単位は、エネルギー使用量を活動量で割った指標です。分子は使用電力量で共通ですが、分母をどう置くかで使い勝手が変わります。事業が伸びれば分母も増える数字を選ぶのが基本です。
分母の選び方を誤ると、指標が動かなくなります。たとえば延床面積は増改築がなければ一定なので、分母に置くと使用量の増減がそのまま出ます。それ自体は分かりやすい一方、稼働の変化を吸収してくれません。稼働率の変動が大きい施設では、稼働を反映する分母を選ぶほうが実態に合います。
総量目標は稼働の増減に飲み込まれます。原単位で置けば、事業が伸びた年でも省エネの成果を分離して評価できます。
省エネ法では、対象となる事業者にエネルギー使用量の報告と、エネルギー消費原単位を年平均1パーセント低減する努力目標が課されているとされています。この1パーセントという水準が、目標値を置くときの一つの参考になります。
総量で目標を置くと、事業が伸びた年は未達になりやすくなります。生産や稼働が増えれば使用量は増えるためです。その年に省エネの取り組みが進んでいても、数字の上では後退して見えます。逆に事業が縮んだ年は、何もしなくても達成します。どちらも、取り組みの評価としては使えません。
原単位で置けば、稼働の増減が分母に反映されるため、使い方が改善したかどうかだけが残ります。対外的な報告には総量の数字も必要ですが、社内で追いかける目標は原単位に寄せるほうが機能します。
KPIを決める前に、次の点を押さえておくと運用が続きます。
層ごとに1つか2つが目安です。成果指標に電気料金の総額、中間指標に原単位と契約電力、先行指標に最大デマンド値、という組み合わせであれば、報告と実務の両方をまかなえます。数を増やすほど、追いかけられなくなります。
基本料金を直接決める数値であり、一度下げれば下がったまま推移するためです。使用量の削減は毎月の努力が必要ですが、契約電力の引き下げは成果が残り続けます。実量制では過去12か月の最大値で決まるため、下げた効果が反映されるまでに時間差がある点だけ注意してください。
変えること自体は可能ですが、変えた年の前後で比較できなくなります。変更する場合は、過去数年分を新しい分母で計算し直して並べてください。報告に使う数値であれば、変更した理由も記録に残しておく必要があります。
日次での確認をおすすめします。30分ごとに計測されるため、当日中に目標ラインへ近づいていることが分かれば、その場で手を打てます。月次の確認では、記録が確定してからになり、間に合いません。
電気料金の総額だけをKPIに置くと、単価と稼働に飲み込まれて現場の努力が映りません。成果指標・中間指標・先行指標の3層に分け、それぞれ見る人と見る頻度を決めてください。手を打てるのは、30分ごとに動く先行指標の層だけです。
原単位の分母は、事業が伸びれば一緒に増える数字を選びます。目標値は総量ではなく原単位で置けば、稼働が増えた年でも取り組みの成果を分離して評価できます。指標が決まったら、次はその数字が自動で集まる仕組みを整える段階です。