「脱炭素に取り組まなければ」という話は聞くものの、具体的に何から手をつければよいのか分からないまま、日々の業務に追われている担当者は少なくありません。特に病院や工場、ホテル、商業施設のように高圧電力で受電している大規模施設では、省エネ設備の更新や再生可能エネルギーの導入など、選択肢そのものは多く存在します。問題は、その中のどれを、どの順番で進めればよいかという判断基準が示されていないことです。
検索すると、「Scope1〜3の排出量を算定し、SBTに沿って目標を立てる」といった説明や、太陽光発電・PPA・EV導入といった個別の施策紹介は数多く見つかります。この記事では、それらに加えて「自社の場合、最初に何から着手すべきか」という実務的な判断基準に絞って説明します。
本記事では、脱炭素にこれから取り組み始める企業が最初に組み立てるべき全体の流れを、現状把握・目標設定・優先順位づけ・実行という4つの段階に分けて解説します。特に、対策をどう選び、どの順番で進めるかという判断基準に重点を置きます。
脱炭素の取り組みを始めるにあたって最初に必要なのは、壮大な計画ではなく、現状把握・目標設定・優先順位づけ・実行という4つの段階を順番に踏むことです。どれか一つを飛ばして対策の実行だけを先に進めると、効果を測る基準がないまま設備投資だけが先行し、社内外への説明ができなくなるという事態になりがちです。逆に、算定や目標設定に時間をかけすぎて、対策の実行が翌年度以降に先送りになってしまう例も少なくありません。まずは、この4段階を一巡させることを目標にしてください。
現状把握の第一歩は、精緻な計算式を使うことではなく、電気・ガス・燃料の使用量を過去1年分そろえることです。高圧電力で受電している施設であれば、電力会社からの請求書や検針票に、月ごとの使用量と契約電力の実績が記載されています。まずはこれを1年分集め、月別・設備別にどこでどれだけ電力を使っているかを把握することから始めます。ボイラーや自家発電設備で燃料を使っている場合は、燃料の使用量もあわせて集計します。
この段階では、Scope1〜3のすべてを一度に算定しようとする必要はありません。まずは自社が直接コントロールしやすい範囲の使用量を把握し、算定の範囲を広げるかどうかは次の段階以降で検討すれば十分です。
目標は、遠い将来の理想像ではなく、3〜5年程度先までに追える数字として設定することが実務上は機能します。2050年のカーボンニュートラルを最終的なゴールに置くこと自体は間違いではありませんが、日々の意思決定に使えるのは、もっと手前の中期目標です。「3年後までに、現状把握で分かった使用量から何%削減するか」という形で、自社が実行可能な範囲の数字を置くことをおすすめします。
目標を数字で持っておくと、対策ごとの効果を「目標に対してどれだけ寄与するか」という基準で比較できるようになります。逆に目標が曖昧なままだと、次の優先順位づけの段階で、対策の良し悪しを判断する軸を持てなくなります。
数ある対策の中から何を先に実行するかは、初期費用の大小と、効果が出るまでの期間という2つの軸で仕分けると判断しやすくなります。設備の運用方法の見直しや、使用電力のピークを抑える対策のように、初期費用を抑えつつ短期間で効果を確認できる対策があります。一方で、太陽光発電の設置や大型設備の入れ替えのように、初期費用が大きく、効果が数字として表れるまでに数年単位を要する対策もあります。
脱炭素に取り組み始めたばかりの段階では、初期費用が小さく効果が出るまでの期間が短い対策から着手し、社内に「取り組みが数字として結果につながる」という実感を作ることが、その後の投資判断を進めやすくします。
脱炭素の取り組みが途中で止まる主な原因は、対策そのものの効果ではなく、担当者と進捗確認の仕組みが決まっていないことにあります。算定や目標設定までは進んでも、誰が数字を更新し、いつ見直すかが決まっていないと、対策の実行段階で担当者の異動や他業務の優先などにより取り組みが停滞してしまいます。
実行段階に入る前に、少なくとも「誰が排出量データを継続して集計するか」「どのくらいの頻度で進捗を確認するか」の2点は決めておいてください。あわせて、優先順位づけで最初に着手すると決めた対策から先に動かし、小さくても結果が見える状態を早めに作ることが、その後の対策を続けていくための土台になります。
対策を実行に移す前に、次の点を確認しておくと、後の手戻りを減らせます。
当社が実際に導入した施設のデータでは、年間の削減額の目安は施設規模によって異なり、介護施設・小規模病院で年70〜120万円、オフィスビル・市役所で年150〜300万円、総合病院・ホテルで年250〜450万円、工場・大型商業施設で年400〜720万円となっています。自社がどの規模に近いかを踏まえておくと、優先順位づけの判断材料になります。
現時点では大企業ほど強い要請を受けていない施設もありますが、取引先や金融機関からの照会は今後広がる可能性があります。規模にかかわらず、まずは自社の使用量を把握しておくこと自体に意味があります。
必須ではありません。多くの企業は、自社が直接コントロールしやすい範囲の使用量の把握から始め、余力に応じて算定の範囲を広げています。
兼任でも始められます。ただし、誰が数字を追うかを最初に決めておかないと、把握した使用量が更新されないまま止まってしまうことが多いため、担当だけは明確にしておくことをおすすめします。
数値目標のほうが、進捗の確認や社内外への説明がしやすくなります。壮大な目標である必要はなく、まずは3〜5年程度で追える範囲の数字から置くことをおすすめします。
脱炭素にこれから取り組む場合、最初に必要なのは特別なノウハウではなく、現状把握・目標設定・優先順位づけ・実行という順番を踏むことです。特に、対策の優先順位づけの段階で、初期費用の大小と効果が出るまでの期間という基準を持っておくと、どこから着手すべきかで迷う時間を減らせます。まずは電気料金の請求書をそろえるところから、着手してみてください。