脱炭素の目標を掲げ、Scope1・2・3の算定までは終えた。しかし「では、どうやって減らすのか」という段になると、出てくる案が再生可能エネルギーへの切り替えと証書の購入だけになってしまう。サステナビリティを担当していると、珍しくない状態です。
Scope2は、施設で使う電気に伴う間接排出です。電気を大量に使う施設ではScope1との合計に占める割合が大きく、目標に届くかどうかを左右します。そしてScope2の削減方法は、どちらの基準で報告するかによって効き方が変わります。
この記事では、排出量を構成する2つの変数まで戻り、打ち手ごとにどちらの基準へ効くのかを整理します。あわせて係数の更新による見かけの減少の切り分け方と、費用の性質の違いも書きます。年間の電気料金が2,000万円以上の大規模施設を想定しています。
Scope2排出量は「電力使用量(kWh)×排出係数」で算出されるため、施設側で動かせる変数はこの2つしかありません。どのような施策も、最終的にはこのどちらか、あるいは両方を小さくする行為に分類できます。
この分類は、削減案の優先順位を決めるときに効きます。「省エネ」「再エネ」「証書」という呼び名のまま並べても何を動かしているのかは見えませんが、式の左右どちらに効くかで並べ替えると、同じ変数を取り合っている案が区別できます。
電力使用量は設備の効率や運転のタイミングで決まり、排出係数は契約している電力メニューと調達した環境価値で決まります。前者は施設の中の話、後者は契約書の上の話で、相談する相手も決裁の通し方も別物です。
再生可能エネルギーのメニューへの切り替えや証書の調達は、マーケット基準の数値だけを下げ、ロケーション基準の数値は動きません。電力使用量そのものを減らす打ち手だけが、両方の基準を同時に下げます。片方の打ち手に予算を集中させると、もう一方の基準の数値が据え置きで残ります。
ロケーション基準は、平均的な排出係数を用いてScope2を算定する方法です。平均の係数を使うため、どの事業者と契約していても、どのような証書を調達していても、係数の値そのものは変わりません。この基準の数値を下げる方法は、電力使用量を減らすこと以外にありません。
マーケット基準は、契約している電力メニューの排出係数や、非化石証書・グリーン電力証書・再生可能エネルギー由来のJ-クレジットといった環境価値を反映して算定する方法です。調達の行動が数値に表れるため、再生可能エネルギーの比率が高いメニューに切り替えれば、使用量が同じでも数値は下がります。
GHGプロトコルでは両方の基準での算定と開示が推奨されているとされています。一方の基準だけを見て施策を決めると、開示のもう半分が手つかずで残ります。
排出係数は年度ごとに更新されるため、施設の使い方が前年と同じでも報告上の排出量は動きます。係数の低下による減少を自社の成果として説明すると、係数が上がった年度に理由を説明できなくなります。
切り分け方は単純です。排出量と並べて、電力使用量そのものも年度ごとに記録します。使用電力量が減っていれば施設側の成果、横ばいのまま排出量だけが減っていれば係数の効果です。報告書の比較表には、この2行を並べて置いてください。
係数の呼称や算定の枠組みは制度側で見直されることがあります。近年も基礎排出係数の扱いが整理されたとされているため、使った係数の名称と対象年度は記録に残しておくと、後から突き合わせる際に迷いません。
証書やメニューの切り替えによる削減は毎年の支出が発生し続けるのに対し、電力使用量の削減は毎年の支出そのものを減らします。どちらも排出量の数値を下げますが、予算に与える向きは反対です。
証書の調達は、その年度の排出量を下げます。同じ水準を保つには翌年度もまた調達が必要で、単価は市場の状況で動きます。削減目標の達成を毎年の予算措置に依存させる形です。
一方、電力使用量の削減は、減らした分だけ電気料金の支払いが減ります。効果は施設の使い方が変わらない限り翌年以降も続きます。しかも高圧で受電している施設では、ピークを抑えて契約電力を下げれば基本料金にも効いてきます。
証書に意味がないという話ではなく、使用電力量で下げられる範囲を先に確かめ、届かない差分を埋める順序が組みやすいということです。
電気を大量に使う施設では、使用電力量の多くを空調と給湯が占めます。照明を切り替えても動かせる範囲は限られ、削減の主戦場はこちらです。
ただし機器の入れ替えは初期投資と、停止を伴う工事が前提です。医療機関や24時間動く施設では、工事の窓を確保すること自体が難しい場合があります。そこで先に検討できるのが、既存の設備のまま運転のタイミングを制御し、使用電力量とピークを同時に抑える方法です。
当社が提供しているシステムは、特許を取得した制御方式で機器の運転を調整するもので、稼働実績は20年以上、導入は約3,500社・12,000施設にのぼります。初期費用0円で、削減できた電気料金の範囲内でお支払いいただくスキームです。これまでの削減実績は施設の規模により年間70万円から720万円、CO2排出量では年間数十トンの削減となっています。
外部の事業者に相談する場合、次の4点を先に確認しておくと報告書の作成で困りません。
GHGプロトコルでは両方の基準での算定と開示が推奨されているとされています。片方で足りるかは提出先の要求によりますので、まず様式をご確認ください。
マーケット基準の数値は下がりますが、ロケーション基準の数値は使用電力量が減らない限り動きません。また電気料金は使用量に単価を掛けるため、使用量が大きいほど単価の変動が響きます。
使用電力量は電気料金明細の使用電力量欄から、排出係数は国が公表している電気事業者別の係数から取ります。拠点ごとに12か月分を並べて保管しておくと、年度をまたいだ比較が楽になります。
機器を入れ替えなくても、運転のタイミングを調整して使用電力量を減らせば、Scope2の数値は下がります。初期費用0円のスキームであれば、設備投資の予算を確保する前でも着手を検討できます。
Scope2排出量は、電力使用量と排出係数の掛け算です。証書やメニューの切り替えは右側の変数だけを動かすため、マーケット基準の数値が下がっても、ロケーション基準の数値は残ります。両方を同時に下げられるのは、使用量そのものを減らす打ち手だけです。
さらに使用量の削減は電気料金の支払いを減らすため、翌年度以降の追加支出も生じません。まず使用電力量で下げられる範囲を確かめ、届かない差分を証書で埋める。この順序であれば、削減目標と予算の両方に無理が出にくくなります。自社の施設でどこまで下がるかは、電気料金の明細をご用意いただければ無料で試算いたします。