サステナビリティ報告の担当になって最初にぶつかるのは、開示の基準そのものよりも、手元にある電力データの粗さではないでしょうか。請求書の束はある。会計システムには支払額が入っている。ところが「昨年度、全拠点で何kWh使ったか」を出そうとすると、途端に手が止まります。
制度の解説はよく整備されていて、いつから何を開示するのかは調べればすぐ分かります。反対に情報が少ないのが、その手前の作業です。どの期間で切るのか、拠点ごとにどう集めるのか、実測できない部分をどう扱うのか。ここは各社の運用に委ねられていて、正解が示されていません。
この記事では、報告書の様式ではなく、その材料となる電力データの整え方を扱います。一度整えておけば、翌年からの作業量が大きく変わる部分です。
集めるのは1種類の使用電力量(kWh)ですが、そこから作る数字は報告先ごとに異なります。省エネ法の定期報告では原油換算kLとエネルギー消費原単位、温室効果ガスの報告や有価証券報告書のサステナビリティ情報ではCO2排出量(t)に変換して提出します。
ここを意識せずに集計を始めると、報告先ごとに別の担当者が別の期間・別の拠点範囲で数字を作ってしまい、あとから突き合わせたときに合わなくなります。
入口を1つにそろえておけば、出口が増えても作業は増えません。逆に入口が分かれていると、報告先が1つ増えるたびに集計をやり直すことになります。
電力の検針日は年度の区切りと一致しないため、どの月の検針分をその年度に入れるかは各社で決めることになります。大切なのは切り方の正しさより、毎年度同じ切り方を続けることです。
たとえば検針日が毎月20日前後の施設なら、年度分として集めた12か月は、実際には3月下旬から翌年3月中旬までの使用量になります。これ自体は問題になりません。ところが、ある年だけ日割りに変えると、その年の使用量が前後の年度とそろわず、前年比の増減が実態と食い違います。
報告で見られているのは、単年の絶対値よりも推移です。原単位の低減も排出量の増減も、前年度と比べて語られます。比較の土台が年ごとに動くと、説明のつかない数字が残ります。
決めておくのは次の3点です。いずれも一度決めたら、議事録なり手順書なりに残しておいてください。翌年、担当者が代わっても同じ切り方を再現できます。
電力データは、月別・拠点別・エネルギー種別の3つの軸で分けて保持してください。年計の1つの数字だけを残していると、増えた理由も減った理由も後から追えなくなります。
報告の場で問われるのは、数字そのものより「なぜ動いたのか」です。前年度より増えていれば、稼働が増えたのか、猛暑だったのか、拠点が増えたのか、設備が劣化したのかを答えることになります。年計しか手元になければ、どれも答えられません。
3軸で持っていれば、増えた月と増えた拠点をたどるだけで原因の見当がつきます。夏場だけ伸びていれば空調、全月が一様に伸びていれば拠点の増加や稼働時間の延長、という具合です。第三者による保証や監査を受ける段でも、この粒度があれば裏づけを示せます。
全社の電力データをそろえようとすると、必ず実測できない部分が出てきます。テナントとして入居している事務所で専用のメーターが無い区画、共用部の按分、駐車場や倉庫の一部などです。
推計そのものは避けられませんし、否定されるものでもありません。専有面積に床面積あたりの消費原単位を掛ける方法は、実測値が取れない場合の推計としてよく使われます。問題になるのは、推計だと記録に残っていない場合です。
次の3点をデータと一緒に残しておいてください。
推計の割合が高いままだと、削減の取り組みをしても報告値がほとんど動かないという事態が起こります。推計値は面積で決まるため、実際に使用量を減らしても数値に反映されないためです。削減を数字で示したい範囲から順に、実測へ寄せていくのが現実的な進め方です。
データ整備の体制をつくる前に、次の点を確かめておくと手戻りが減ります。
そして、データがそろったあとに残るのが、使用量そのものを下げる作業です。報告値は集計の精度を上げても下がりません。当社は電気工事士資格を持つ自社スタッフが施工を担当し、導入後は削減できた電気料金とCO2排出量の削減量を数値でご報告しています。報告書に載せる数値の裏づけとしてお使いいただけます。
毎年度同じ切り方を続けていれば、実務上の問題にはなりにくいと考えられます。むしろ年によって切り方を変えるほうが、前年比が実態と食い違う原因になります。決めた切り方は記録に残してください。
そのエネルギーの使用について権原を持つ側が報告します。契約形態によって変わるため、賃貸借契約と管理規約を確認し、判断が難しい場合は建物の所有者側と範囲をすり合わせておくと重複や漏れを防げます。
推計であること、その方法と根拠が記録されていれば、実務上は用いられています。避けたいのは、推計と実測が区別されないまま集計表に並んでいる状態です。
集計の切り方や範囲を変えた場合、比較のために過去年度をさかのぼって作り直すことがあります。作り直した場合は、どの年度をどう修正したかを記録に残しておいてください。
サステナビリティ報告で使う電力データは、集める材料は使用電力量の1種類だけです。そこから原油換算kL、CO2排出量、拠点単位の数値が作られます。入口を1つにそろえておけば、報告先が増えても集計をやり直さずに済みます。
整えるときの要点は3つです。集計期間は毎年度同じ切り方を続けること。月別・拠点別・エネルギー種別の3軸で保持すること。実測と推計を分けて記録すること。この3つがそろっていれば、増減を問われたときに数字の中から答えを出せます。
そして、データを正しく集めても報告値そのものは下がりません。数字を動かすのは、設備の使い方です。